学長室からのメッセージ

 

 活水女子大学をご卒業なさる皆様、おめでとうございます。
本日の卒業式においでくださいましたご来賓の皆様、ご家族、ご親族、ご友人、関係者の方々にも心よりご参列のお礼を申し上げます。

 活水女子大学は136年前の1879年、明治12年に、アメリカ人のエリザベス・ラッセルという43歳の女性と、ジーン・ギーアという33歳の女性によって開かれました。日本の女性たちが学べるように、女性たちがその能力を伸ばし、男性とともに力を合わせて良い社会を築いてゆけるようにとの期待をこめて作られました。その由緒ある活水女子大学が行ってきた女子のための教育を短い言葉で要約するならば、「知性を伸ばす」「品性を磨く」「人間性を育てる」ということではないでしょうか。「活水は 知性 品性 人間性」、このように日本人にとっては覚えやすいリズムの五七五にまとめることができます。

 知性とは、英語でいえばインテリジェンスです。ノリッジやインフォメーションなど、個々ばらばらの知識や情報ではなく、物事、つまりは現場だと思いますが、その中に踏み込み、掘り下げて、本質にまでたどり着こうとする働きを言います。一歩ずつ確かめながら前に進んで行く力です。抜け落ち、見落とし、飛躍があってはなりません。皆さんが受けてきた大学の授業のほとんどは、こうした力を訓練するためにあったと思います。

 次に品性とは、と説明しなければなりませんが、これはやや難しいので先に人間性について考えましょう。人間性とは英語ではヒューマニティです。ヒューマニズム、ヒューマンなどという言葉もあります。周りの人への思いやり、温かい心を指すものです。

 さて残っている品性について考えようと思います。その英語が私にはなかなか思いつきません。そこで和英辞書で探してみました。するとそこには、キャラクター、あるいはディグニティという言葉が候補として挙げられていました。
英国の小説に『チップス先生、さようなら』があります。英語のタイトルは「グッドバイ・ミスター・チップス」といいます。ジェイムズ・ヒルトンが1934年に発表した小説で、イギリスのパブリックスクールの先生を主人公にした作品です。そこにキャサリンという魅力的な女性がでてきます。キャサリンはチップス先生が48歳になった時に出会って結婚した23も年下の、若い奥さんでした。

 小説の舞台は19世紀から20世紀に変わるあたりで、中ほどに第一次世界大戦が出てきます。その頃の英国のパブリックスクールは、英国社会の中流階級、特権階級の子弟が集う世界でした。その頃は英国には少数の上流と中流の人々がいて、その下に大勢の、貧しい家庭に生まれ、高等教育も受けられず、激しい肉体労働をして、食べてゆくのがやっと、という低層の人々がいました。

 チップス先生の勤めるブルックフィールドというパブリックスクールは、チャリティ、慈善事業として底辺の少年たちのために初等程度の教育をほどこす学校を経営してはいましたが、それ以上の関係をもとうとは考えていませんでした。キャサリンはそれに対して、そのポプラーという学校の少年たちも同じ英国国民であって、彼らも英国に対してブルックフィールド校の生徒達と同じ社会貢献をする英国国民であると、チップス先生に説きます。そうして兄弟校としてサッカーの交流試合をしようとの提案をします。

 当時は良い家の子供たちが、言葉づかいも行儀も悪く、服装もみすぼらしい、見るからに下層と見える少年たちを相手にスポーツの試合をすると、絶対に大騒ぎになると人々は思っていたので、みんな、そういうことはやりたくないというのが本音でした。

 この小説は続けます、「キャサリンのこのアイデアはあまりにも革命的、レヴォリュウーショナリーであったから、他の人からの提案であったら冷たい反応しか得られず、そのアイデアは凍りつき、そこで死んでしまったことだろう」と。ということは、キャサリンが提案したから、人々はこのことをやってみようという気になった、というように、話は展開してゆきます。

 そうして二つの学校の交流試合が実現します。そして双方の側に素晴らしい思い出となって残り、互いに相手に対する理解と尊敬と愛情が深まったと、描かれています。

 チップス先生自身は慎重でこのように革新的なことにはなかなか踏み切れない人だったのですが、キャサリンが夫チップス先生を説得する場面の言葉が、私は大好きです。彼女は言います「チップス、あの人たちが間違っている(They are wrong, you know, )そして私の方が正しい、( and I’m right.)
胸のすくような言葉です。そしてそれに理由が付けられています。そこがキャサリンの知性、インテリジェンスの本領が発揮されるところです。彼女は言います、「なぜなら私は未来を見ている(I ’m looking ahead to the future )」、「あの人たちとあなたは過去を見ている(they and you are looking back to the past)」と。

 こういうことを確信をもって言えるためには、ふだんから、ものごとをよく観察し、考えて、ほんとうに大事なものを見つけ出す、知的な努力が必要です。インテリジェンスとはそういう力です。それから、英国中の子供たちは等しく貴く、可愛く、大切な存在であるという、キャサリンのヒューマニティがあります。さらに、それをキャサリンが言ったら、周りの人が、自分の利己的な、事なかれ主義的な、何もしないでいるのが楽だという怠けものめいた心を恥じて、正面から反論できなかったというところにですがそこで発揮されたのは彼女の品位ではなかったか、と思いました。静かな威厳とでも言えると思います。それは言い換えると人格の力でもあります。そう考えると、品性は英語ではディグニティ、キャラクターである、という辞書の説明も、明快につながって納得することができるように思われます。

 品性とは「清いこころ」とも言えるのではないでしょうか。さらに突き詰めてゆくと「高い理想」ということではないかと思います。ほんとうに高い理想に対しては、人の心は惹かれるものです。

 「チップス先生、さようなら」のチップス夫人キャサリンは、そのような知性と品性と人間性が具わっていた人でした。「あの人たちが間違っている、そして私の方が正しい」と確信を持って言える人になるためには、知性を磨く真剣な努力が必要です。自分が正しいという、その根拠として、私は人間のすべての人への愛からそう発言している、と言うためには、もっともっと人間的にならねばなりません。そうして、そういうあなたの声に周りの人々が耳を傾けてくれるような人になるには、品位、品性が必要だということを、これから社会に出て、本当にあなた方の一人前の人間としての活動が始める皆さんにお伝えしたいと思います。

 活水を巣立った後も、活水が目指した「知性 品性 人間性」を磨き続け、「あなたがそこにいてくれて、ほんとうに良かった」と、周りの人から言われるような、美しい、清い、素敵な女性になって下さい。

 
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